賃貸の退去時の掃除と原状回復|借主負担はどこまでかを先に確かめる

賃貸の退去費用を抑える|原状回復は「予防」と「知識」で変わる 時短家事

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賃貸の退去時の掃除と原状回復|借主負担はどこまでかを先に確かめる

賃貸を退去するとき、いちばん不安なのが原状回復の請求です。退去前にどこまで掃除すればいいのか、どこからが自分の負担なのか。ここがはっきりしないまま立会いの日を迎えると、示された内容をそのまま受け取るしかなくなります。

原状回復には、国土交通省が示している一般的な考え方があります。負担の区分と、年数の扱いと、範囲の決め方。この3つを知っているかどうかで、退去時にできることが変わります。そして日頃の予防が、そもそも負担になる汚れを作らないようにしてくれます。

この記事は、掃除の手順書ではありません。退去時に借主が負担することになる範囲を先に確かめ、そこから逆算して退去前の掃除と入居中の予防を決めるという順番で整理します。個別の汚れの落とし方は、それぞれの掃除記事に委ねます。

原状回復は、予防と知識で結果が変わります。順番に見ていきましょう。

  1. 原状回復は、入居時の状態に戻すことではない
    1. 民法とガイドラインが定めていること
    2. 掃除で動かせるのは、どの部分か
  2. 借主負担と貸主負担は、3つの区分で決まる
    1. A区分 通常の住まい方で発生するもの
    2. B区分 住まい方次第で発生するもの
    3. A(+B)区分 手入れ不足で発生または拡大したもの
    4. 区分の早見表
  3. 経年変化と耐用年数で、負担割合は下がっていく
    1. 年数が経つほど負担割合は小さくなる
    2. 部位ごとの耐用年数
    3. 経過年数の考えになじまないもの
    4. 負担する範囲は、毀損部分の最低限度から考える
  4. 退去前の掃除で差が出る場所
    1. キッチンの油汚れと換気扇
    2. 浴室のカビと石けんカス
    3. 排水口とトラップ
    4. 洗面台・トイレの水回り
    5. 窓サッシ・網戸・ベランダ
    6. 手をかける順番の決め方(仕分け表)
  5. 掃除しても負担が動かない場所
  6. 入居中の予防習慣が、退去時の請求を削る
    1. 換気でカビの3条件を1つ外す
    2. 結露は拭く、続くなら連絡する
    3. 油は入れない・溜めない
    4. 家具の脚とへこみ・キズ
    5. 落とせる汚れは溜める前に落とす
  7. 退去立会いの準備
    1. 入居時の記録を先に探す
    2. 立会いでその場で確認すること
    3. 立会いがない場合にやっておくこと
  8. 精算書・見積書の3つの照合点
  9. 特約があると結論が変わる
    1. ハウスクリーニング特約・エアコンクリーニング特約
    2. 特約が有効に成立するための3要件
    3. ペット・喫煙に関する特約
  10. 請求に納得できないときの相談先
    1. まずは内訳と根拠を聞く
    2. 消費生活センターと消費者ホットライン
    3. 話し合いで決まらないとき
  11. トラブルになりやすい部位から、力の入れどころを決める
  12. 筆者の判断基準
  13. よくある質問
    1. 退去前のハウスクリーニングは、自分で業者に頼んだほうが安くなりますか
    2. 掃除をまったくしないで退去したら、その分だけ請求は増えますか
    3. 入居時の写真を撮っていません。もう打つ手はないですか
  14. 参照した公式情報(取得日)
  15. まとめ:区分を先に決めて、掃除と予防を割り当てる

原状回復は、入居時の状態に戻すことではない

民法とガイドラインが定めていること

原状回復と聞くと、入居時の新品同様に戻すことだと思われがちですが、そうではありません。

民法621条は、賃借人は借りた物に生じた損傷を原状に復する義務を負うと定めていますが、そのカッコの中で、通常の使用および収益によって生じた損耗と、経年変化を除くと明記しています(e-Gov法令検索 民法/2026-09-12取得)。さらに、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときも、義務は生じません。

国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドラインは、原状回復を、借主の居住・使用により発生した建物価値の減少のうち、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧することと定義しています(国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドラインについて/2026-09-12取得)。経年変化と通常損耗の修繕費用は、賃料に含まれるものと考えられています。

東京都の賃貸住宅トラブル防止ガイドラインも同じ立場で、貸主が負担するのは経年変化と通常使用による損耗だとし、ポスター跡、家具設置によるカーペットのへこみ、日焼けによる畳やクロスの変色を例に挙げています(東京都住宅政策本部 賃貸住宅トラブル防止ガイドライン/2026-09-12取得)。

つまり、普通に住んでいて生じた汚れや劣化は、原則として自分の負担ではない。ここが出発点です。

掃除で動かせるのは、どの部分か

一方で、借主の負担になるのは、故意・過失や手入れ不足による通常以上の汚損・破損です。国土交通省の参考資料は、クロスへの落書き、誤ってつけたフローリングのキズ、結露を放置したために拡大したカビやシミ、喫煙によって生じた臭いやクロスの変色を、借主が義務を負う例として挙げています(国土交通省 ガイドラインに関する参考資料/2026-09-12取得)。

ここで大事なのは、退去前の掃除で結果が変わるのは、手入れ不足で発生・拡大した汚れだけだということです。落書きやキズは掃除では戻りません。経年変化はそもそも自分の負担ではないので、磨いても評価は変わりません。掃除に時間をかける価値があるのは、その中間の、放置したせいで通常以上になってしまった汚れです。

だから退去前の掃除は、家中を均等にやるのではなく、手入れ不足と見られやすい場所に集中させるのが合理的です。

借主負担と貸主負担は、3つの区分で決まる

ガイドラインは、損耗を3つに区分しています。この記号を知っておくと、請求内容を自分で仕分けできるようになります。

A区分 通常の住まい方で発生するもの

借主が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるものです。ガイドラインの考え方では、これは賃料でカバーされるべきものとされ、借主の負担にはなりません。

日焼けによる変色、家具を置いたことによる床やカーペットのへこみ、画鋲やピンの跡といったものが、この区分にあたると説明されています。

B区分 住まい方次第で発生するもの

借主の住まい方、使い方次第で発生したりしなかったりすると考えられるもの、つまり明らかに通常の使用等による結果とはいえないものです。参考資料は、クロスのB区分の例として、喫煙によるヤニの変色と臭い、ペットによるキズと臭い、落書き、故意・過失による破れとキズを挙げています。床では、不注意による破損が挙げられています。

A(+B)区分 手入れ不足で発生または拡大したもの

基本的には通常の住まい方でも発生すると考えられるものだけれど、その後の手入れが悪く、損耗が発生または拡大したと考えられるものです。参考資料は、台所の油汚れ(使用後の手入れが悪くススや油が付着している場合)と、結露を放置したことにより拡大したカビを、この区分の例として挙げています。

結露の説明は特に示唆的です。参考資料は、結露は建物の構造上の問題であることが多いとしつつ、結露が発生しているにもかかわらず貸主に通知もせず、拭き取るなどの手入れを怠って壁等を腐食させた場合は、通常の使用による損耗を超えると判断される場合が多いとしています。つまり、通知と手入れをしたかどうかが分かれ目になります

区分の早見表

部位別に整理すると、力の入れどころが見えてきます。

部位 貸主負担になりやすい例(A) 借主負担になりやすい例(B・A(+B))
壁のクロス 日焼けによる変色、画鋲・ピンの跡、テレビや冷蔵庫の裏の電気焼け 落書き、故意・過失による破れ、喫煙によるヤニの変色と臭い、結露を放置して拡大したカビ
床(フローリング) 家具設置によるへこみ、通常歩行による摩耗 不注意による破損、水漏れを放置して生じた変色
畳・カーペット 経年による色落ち、家具のへこみ 飲み物をこぼして放置したシミ
キッチン 通常の使用による設備の劣化 手入れ不足で付着したススと油汚れ
浴室・洗面 設備の経年劣化 手入れを怠って特別な清掃が必要になったカビや汚れ
建具・網戸 経年による網の劣化 故意・過失による破損

貸主負担の列は、退去前に磨いても評価が変わらない場所です。借主負担の列のうち、手入れ不足で拡大したもの(A(+B))だけが、掃除で戻せる可能性のある部分です。

なお、ここで示すのは一般的な考え方です。参考資料自身が、ガイドラインは使用を強制するものではなく、原状回復の内容・方法等は最終的には契約内容や物件の使用の状況等によって個別に判断・決定されるべきものだとしています。自分の契約書と実際の状態を突き合わせて考えてください。

経年変化と耐用年数で、負担割合は下がっていく

年数が経つほど負担割合は小さくなる

借主に原状回復義務があると判断される場合でも、費用の全額を借主が負担するわけではありません。ガイドラインは、建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど借主の負担割合を減少させることが適当だとしています。

具体的な算定の考え方はこうです。耐用年数が経過した設備について残存価値が最小になるような直線(または曲線)を想定し、そこから負担割合を出します。参考資料は、入居時にクロスが張り替えられている場合を例に、3年後に退去するなら負担割合は50パーセントまで低下しており、4年8か月後なら約22パーセントになると説明しています。耐用年数を過ぎていれば、負担割合はほぼゼロまで下がります。

ただし注意書きもあります。耐用年数を過ぎている場合でも借主は善管注意義務を負っているため、故意にクロスに落書きをしたような場合には、一定の費用負担を求められることがあるとされています。

部位ごとの耐用年数

参考資料はガイドラインから抜粋した耐用年数の表を載せています。年数だけを拾うと、次のようになります。

部位・設備 耐用年数(年)
壁のクロス 6
流し台 5
冷暖房機器・ガス機器 6
便器・洗面台・ユニットバス 15
非金属製の家具(たんす、戸棚等) 8
金属製の器具・下駄箱 15
カーペット・クッションフロア・畳床 6

建物そのものの耐用年数は構造で分かれ、木造は22、鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造は47、金属造は骨格材の肉厚によって19から34の範囲で示されています(単位は年)。

この表の使いどころは、請求内容を見たときに、その設備が何年使われていたのかを聞けるようになるという点です。設備の交換時期が分かれば、負担割合の目安も自分で見当がつきます。

経過年数の考えになじまないもの

すべてが年数で割り引かれるわけではありません。参考資料は、長期間の使用に耐えられて部分補修が可能なフローリングや、襖紙、障子紙、畳表といった消耗品は、経過年数の考えにはなじまないため経過年数を考慮しないとしています(フローリング全体の毀損による張替えの場合は、建物の耐用年数を用いて経過年数を考慮するとされています)。

負担する範囲は、毀損部分の最低限度から考える

3つめの原則が範囲です。ガイドラインは、借主の負担範囲は可能な限り毀損部分に限定し、その補修に必要な最低限度の工事費用に限定することが基本だとしています。

ただし例外があります。クロスの場合、毀損箇所だけを張り替えるとその部分が明確に判別できる状態になり、建物価値の減少を復旧できていないと考えられるため、毀損箇所を含む一面分までは借主負担としてもやむをえないとされています。一方で、部屋全体の色や模様を一致させるための張替えは、賃貸物件としての商品価値の維持・増大という側面が大きく、部屋全体の張替え費用を借主負担とすることは妥当ではないとされています(喫煙等により居室全体のクロスが変色したり臭いが付着している場合は例外とされています)。

区分・年数・範囲の3つが揃って、はじめて負担の大きさが決まる。これが知識の中身です。

退去前の掃除で差が出る場所

ここからは実務です。手をかける価値があるのは、手入れ不足と見られやすい場所、つまり A(+B) に落ちうる場所です。優先順位の高い順に並べます。

キッチンの油汚れと換気扇

参考資料が A(+B) の例として名指ししているのが台所の油汚れです。退去前の掃除で真っ先に手をつけるべき場所だと考えていいでしょう。

コンロまわり、壁、レンジフードの表面、そして手が届く範囲の部品。油は時間が経つと酸化して固まるので、当日にまとめてやるより、退去が決まった時点から段階的に落としていくほうが確実です。

Panasonicは、レンジフードのフィルターはぬるま湯に浸して汚れを落とし、金属たわしなどの硬いものは使わないこと、整流板は全体にぬるま湯をかけて汚れをゆるませ、台所用の中性洗剤を含ませたスポンジで拭くことを案内しています。固まった油汚れには、ぬるま湯で薄めた換気扇用の弱アルカリ性洗剤をキッチンペーパーにつけ、15から30分ほど湿布すると浮き出てくるとしています(Panasonic レンジフードのお手入れ/2026-09-12取得)。

なお、換気扇の内部洗浄まで借主がやる必要があるかは契約内容によります。表面と取り外せる部品までを目安にして、内部は無理をしないほうが安全です。落とし方の詳細はキッチン掃除を楽にする方法にまとめています。

浴室のカビと石けんカス

もう一つの A(+B) の代表がカビです。参考資料は、入居中に清掃等を怠ったために特別の清掃をしなければ除去できないカビ等の汚損を生じさせた場合、原状回復費用の負担を求められる可能性が高くなるとしています。

逆に言えば、特別な清掃をしなくても落ちる程度なら、退去前に自分で落とせば済むということです。ゴムパッキンの黒ずみ、床の白いザラつき、壁の下半分の石けんカス。ここは時間をかける価値があります。

手順はお風呂掃除を楽にする方法お風呂の鏡のうろこの取り方へ。鏡は表面のコートの有無で手順が変わるので、削る前に確認してください。

排水口とトラップ

見えないうえに、開ければすぐ分かる場所です。キッチンと浴室の排水口は、ぬめりと髪の毛を取り除いて、トラップの部品まで洗っておきます。ここを開けた形跡があるかどうかは、手入れをしていたかどうかの印象に直結します。排水口のぬめりの落とし方を参考にしてください。

洗面台・トイレの水回り

洗面台の水垢と鏡のうろこ、蛇口の白いカリカリ、便器のふち裏の黄ばみ。どれも放置すると落ちにくくなる汚れですが、退去前でも落ちる範囲は残っています。

注意点は、研磨で落とそうとしないことです。傷をつけると、それ自体が故意・過失による毀損になりかねません。溶かす方向で対処してください。詳しくは洗面台の水垢と鏡のうろこを落とす蛇口の水垢の落とし方トイレの黄ばみ・尿石の落とし方へ。

窓サッシ・網戸・ベランダ

サッシの溝の砂と泥、網戸のホコリ、ベランダの排水口。ここは労力に対して評価が変わりにくい場所ですが、砂や泥が固まって残っていると印象が悪くなります。乾いた汚れを先に取ってから水を使うのが原則です。網戸とサッシの掃除にやり方があります。

洗濯機を置いていた場所の防水パンとすき間も、動かしたあとに一度見ておいてください(洗濯機まわりの隙間掃除)。

手をかける順番の決め方(仕分け表)

退去前の時間は限られています。掃除で負担が動くかどうかで仕分けると、順番が決まります。

場所 掃除で負担が動くか 優先度
キッチンの油汚れ・コンロまわり 動く(A(+B) に落ちうる)
浴室のカビ・石けんカス 動く(同)
排水口・トラップ 動く(同)
洗面台・トイレの水回り 動く(同)
サッシの砂・網戸のホコリ 一部動く
床の通常の汚れ ほぼ動かない(通常損耗)
クロスの日焼け・電気焼け 動かない(経年変化・通常損耗) 対象外
家具設置によるへこみ 動かない(同) 対象外

全体の段取りは大掃除の順番・段取りの上から下へ・奥から手前への原則がそのまま使えます。

掃除しても負担が動かない場所

逆に、手をかけても結果が変わりにくい場所をはっきりさせておきます。ここに時間を使わないことが、限られた時間を有効に使うコツです。

  • クロスの日焼けによる変色: 経年変化。磨いても戻らず、負担にもならない
  • テレビや冷蔵庫の裏の電気焼け: 通常の使用によるもの
  • ポスターやカレンダーの跡: 東京都のガイドラインが貸主負担の例として挙げているもの
  • 家具設置によるカーペットや床のへこみ: 同じく貸主負担の例
  • 画鋲やピンの穴: 通常の範囲とされるもの。ただし釘やネジのように下地の補修が必要な穴は別で、壁に穴を開けない収納(突っ張り棒の選び方)を選んでおくのが予防になる
  • エアコンの内部洗浄・換気扇の内部の油: 専門的な作業で、契約内容によって扱いが変わる。自分で分解して壊すほうがリスクが大きい
  • 網戸の張り替え: 経年による網の劣化は借主の作業ではない

ここに書いた場所も、契約に特約があれば扱いが変わります。最後は契約書で確認してください。

入居中の予防習慣が、退去時の請求を削る

退去前にできることには限りがあります。効くのは入居中の習慣です。参考資料は、入居中のキズや汚れの発生を減らすための工夫として、椅子や机の脚にカバー等を付ける、家具や本棚を設置する場合は床のへこみ等を防止するためマット等を敷く、室内や浴室へのカビの発生等を防止するために定期的に換気や清掃を行う、といった取扱いを借主にお願いしている管理業者もあると紹介しています(ただし、これらを実施していないことが必ずしも善管注意義務違反に当たるわけではないと明記されています)。

換気でカビの3条件を1つ外す

TOTOは、カビは高温・多湿・栄養の3つが揃うと発生するとし、栄養源となる汚れをしっかり洗い落として十分に換気することで発生を防止できると案内しています。入浴後は、最後に入った人がシャワーで壁や床を洗い流し、残り湯を抜きながら浴槽内の湯あかをスポンジで落とす。そして入浴後はできるだけ長く換気扇を回したり窓を開けてしっかり換気する、としています(TOTO 浴室のまるごとお掃除/2026-09-12取得)。

栄養を残さない、湿気を残さない。この2つを毎日やるだけで、退去時に特別な清掃が必要な状態にはなりにくくなります。家の中で湿気がたまる場所は浴室だけではないので、梅雨の湿気・カビ対策も参考にしてください。

結露は拭く、続くなら連絡する

結露は区分の分かれ目になる項目です。参考資料の説明を裏返すと、やるべきことは2つです。拭き取る手入れをすることと、発生していることを管理会社等に通知すること

参考資料は、賃貸住宅に修繕の必要が生じた場合、借主の責任の有無に関わらず管理会社等に通知する義務があるとしています(民法615条)。水漏れ等を知らせずに被害を拡大させた場合には損害賠償を請求される可能性があるとも書かれています。さらに、賃貸住宅は貸主が所有する資産なので、借主が無断で修繕を行った場合は退去時にトラブルとなる可能性があるとしています。

つまり、気づいたら連絡する、自分で直さない。これが原則です。連絡した記録(メールやメッセージ)は残しておいてください。

油は入れない・溜めない

キッチンは、汚れを落とす前に入れないほうが早いです。コンロ奥の排気口は、油や食べこぼしが入り込むと拭くだけでは済まなくなります。

こちらは、コンロ奥の排気口をふさぐステンレス製のフラットな排気口カバーです(日本製)。排気口に油や食べこぼしが入り込むのを防ぎ、拭くだけで掃除が済むようになります。汚れを入れないことで、こびりつきそのものを予防できるわけです。なお、魚焼きグリルを使用する際は取り外すなど、商品の注意書きに従って安全に使ってください。

家具の脚とへこみ・キズ

床のへこみは通常損耗とされる一方、引きずってできた深い傷は通常以上と見られることがあります。参考資料が紹介している管理業者の工夫も、椅子や机の脚にカバーを付ける・家具の下にマットを敷くという内容でした。

こちらは、家具の脚裏に貼って床の傷を防ぐフェルトのシートです。大判サイズをカットして使え、裏面が粘着式なので貼るだけ。椅子やテーブル、大型家具の脚に貼っておけば、動かしたときの擦り傷を防げます。床に直接貼るのではなく、家具の脚の裏に貼るのがポイントです。ペットがいる家は、床の傷と滑りの両方を見る必要があるのでペットと暮らす床の対策もあわせてどうぞ。

落とせる汚れは溜める前に落とす

予防していても、生活していれば水垢や油汚れはつきます。溜める前に落としておけば、退去前にまとめて格闘する必要がなくなります。

こちらは、キッチンの油汚れから床、水回りまで幅広く使えるアルカリ電解水のマルチクリーナーです。電気分解で作られた水で、界面活性剤を使っておらず、すすぎや二度拭きの必要がないのが手軽なところ。ただし、水拭きできないもの(漆器、皮製品、銅製品、シルク製品、クリアコーティングされた製品、液晶、大理石など)には使えないので、目立たない場所で試してから使い、気になるときは手袋をしましょう。

汚れの種類で使い分ける原則は、油汚れにはアルカリ性、水垢にはクエン酸などの酸性です。塩素系と酸性を同時に使わないのは当然ですが、前後で使う場合も水でよく流してから切り替えてください

退去立会いの準備

入居時の記録を先に探す

参考資料は、原状回復に関するトラブルの大きな原因の一つは、入居時にあった損耗か否かや損耗の発生時期などの事実関係が判然としないことだとしています。だから入居時に物件の状態を確認して確認リストを作成・保管し、入居前からあったキズ等の客観的証拠として写真を撮影しておくことが重要だとしています。

国民生活センターも、入居時には貸主と一緒に住宅の状況を確認し、キズや汚れを写真やメモで記録し、設備の動作確認をしておくよう案内しています(国民生活センター 賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意/2026-09-12取得)。

退去が決まったら、まず入居時の記録を探すところから始めてください。写真、チェックリスト、契約時に受け取った書面。これが立会いの材料になります。

立会いでその場で確認すること

参考資料によれば、退去時は借主と管理会社等が一緒に部屋の点検・確認を行い、その場で修繕が必要な部位を伝えられ、後日請求書が送付されることが多いとされています。令和4年のアンケートでは、立会いのもと点検を行い修繕等が必要な部位をその場で伝えた上で精算書を後日送るという回答が約6割を占めたとあります。

その場で確認しておくとよいのは次の3点です。

  1. どの部位が修繕対象か(部位を具体的に聞く)
  2. その部位はどの区分と考えているか(通常損耗か、手入れ不足による拡大か)
  3. その設備を最後に交換・張替えしたのはいつか(経過年数の起点)

3つめは負担割合に直結するのに、聞かないと出てこない情報です。立会いの場でメモしておいてください。

立会いがない場合にやっておくこと

同じアンケートでは、退去時の点検で借主の立会いを求めない場合も一定程度(約7パーセント)あるとされています。参考資料は、立ち会いが無い場合は退去前に写真を撮影しておくこともトラブル防止の観点から有用だとしています。

鍵を返す前に、部屋全体と、汚れやキズが気になる箇所を撮っておきましょう。日付が残る形で撮るのがコツです。

精算書・見積書の3つの照合点

請求内容を受け取ったとき、何をどの順で見るか。ガイドラインの3つの論点をそのまま照合の順番にすると、迷いません。

順番 照合点 確認する内容
1 区分 その損耗はそもそも借主負担か。経年変化・通常損耗として貸主負担になる項目が混ざっていないか
2 経過年数 借主負担の項目について、設備の経過年数に応じて負担割合が下げられているか。設備の交換時期はいつか
3 施工単位 毀損部分の補修に必要な最低限度の範囲か。クロスなら一面分を超えて部屋全体が請求されていないか

参考資料も、契約書の原状回復に関する規定・単価の目安・特約の有無を確認したうえで、請求書等の内容に疑問や不明点等があれば管理会社等に相談し、請求内容の内訳や、経過年数を判断するための設備の交換時期について根拠等を聞いて確認することが大切だとしています。

聞くこと自体は正当な確認です。感情ではなく、この3点を順に聞いていくのが早いです。

特約があると結論が変わる

ハウスクリーニング特約・エアコンクリーニング特約

ここまでの原則は、契約に特約があると結論が変わります。参考資料は、実務で締結されることが多い特約としてハウスクリーニング特約とエアコンクリーニング特約を挙げ、ハウスクリーニング特約については部屋の広さや間取りに応じて定額の費用を負担する内容となっていることが多いとしています。

ハウスクリーニング代を借主が負担するかどうかは、契約書の特約次第です。自分の契約書に記載があるかを、退去が決まった時点で確認してください。

なお、特約でクリーニング費用を負担する場合でも、退去前の掃除が無意味になるわけではありません。手入れ不足による汚損は、クリーニングとは別の項目として扱われ得ます。

特約が有効に成立するための3要件

特約があれば何でも有効、というわけでもありません。参考資料は、最高裁判例や消費者契約法の規定を踏まえ、借主に特別の負担を課す特約が有効に成立するための3つの要件をガイドラインが記載しているとしています。

  1. 特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 借主が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 借主が特約による義務負担の意思表示をしていること

参考資料は、客観的・合理的理由については、家賃を周辺相場に比較して明らかに安価に設定する代わりに特別な負担を課す場合などが考えられるが限定的なものと解すべきとしており、また借主が負担することとなる通常損耗等の範囲が契約書に明記され、借主がその内容を理解して契約内容とすることを明確に合意していることが必要としています。

ここは法的な評価が絡むところなので、有効か無効かを自分で断定しないことが大切です。要件に照らして個別の判断が必要だとされている領域なので、疑問があれば次の章の相談先へ持っていくのが筋です。

ペット・喫煙に関する特約

参考資料は、ペット飼育可の物件でペットによるひどいキズや汚れについては経過年数を考慮せず借主負担とする特約、消毒・消臭費用を定額で徴収する特約、喫煙によるヤニでの変色や臭いがひどいときについて経過年数を考慮せず借主負担とする特約が設けられている場合があるとしています。

こうした特約の有効性は上記の要件に照らして個別に判断が必要ですが、ペットの飼育や喫煙に関する契約内容は、契約前によく確認しておくことが重要だとされています。

請求に納得できないときの相談先

まずは内訳と根拠を聞く

参考資料は、原状回復のトラブルは契約に基づき当事者同士で解決することが基本になるとし、請求の内容に疑問等あれば、修繕の必要性や程度について写真等の根拠をお互いに示しながら、双方が納得できる修繕の内容や負担の割合を話し合うことが重要だとしています。令和4年のアンケートでは、話し合いによる解決の割合が圧倒的に高く、96.1パーセントという結果が示されています。

国民生活センターも、納得できない請求については説明を求めるよう案内しています。まずは前章の3つの照合点を持って、管理会社等に確認するところからです。

消費生活センターと消費者ホットライン

話し合いで進まないときの公的な窓口があります。

消費者庁は、全国共通の電話番号である消費者ホットライン188を案内しており、地方公共団体が設置している身近な消費生活センターや消費生活相談窓口をご案内しますと説明しています。市区町村や都道府県の消費生活センターが開所していない場合は国民生活センターがバックアップ相談を行い、平日10時から16時で対応するとされています。相談自体は無料ですが、相談窓口につながった時点から通話料金の負担が発生するとも書かれています(消費者庁 消費者ホットライン188/2026-09-12取得)。

国民生活センターは、賃貸住宅の原状回復トラブルについて注意喚起を出しており、敷金礼金が低い物件での高額請求、入居時と退去時の重複した費用請求、経年劣化や通常損耗を入居者負担とする請求、契約内容の説明不足、全面張替えなどの過度な修繕費用といった相談事例の傾向を挙げています。似たパターンに心当たりがあれば、相談する材料になります。

話し合いで決まらないとき

参考資料は、当事者同士の話し合い以外の紛争解決手法として、少額訴訟(簡易裁判所)、民事調停(簡易裁判所)、ADR(裁判外紛争解決手続き)を挙げ、それぞれの実施機関・秘密の保護・要件・メリット・デメリットを比較しています。少額訴訟は解決までの期間が短く本人訴訟が多い一方、相手方が異議を出すと通常訴訟に移行してしまう、民事調停は話し合いによる円満な解決が見込める一方で相手方が応じなければ不調になる、といった整理です。

少額訴訟には請求額の要件があり、手数料もかかります。詳細は機関等に問い合わせるかホームページを利用するとよいとされているので、制度の詳細は必ず公式で確認してください。ここまで進む前に、消費生活センターに相談して整理するのが現実的な順番です。

トラブルになりやすい部位から、力の入れどころを決める

最後に、力の配分の話をします。参考資料には、令和4年のアンケート(N=437)で、原状回復に関して特にトラブルになりやすい部位として挙げられたものの割合が載っています。上位を拾うと次のとおりです。

部位 挙げられた割合(%)
クロス 73.5
フローリング 52.4
カーペット・クッションフロア 33.4
クリーニング 30.2
建具(扉、柱等) 27.0
壁(ボード) 24.7

ここから読み取れることが2つあります。

1つめは、トラブルの中心は掃除では戻らない部位だということ。クロスとフローリングが上位2つで、水回りの個別の汚れは下のほうです。退去前にシンクを磨き上げても、揉めるのはクロスと床という構図です。

2つめは、だから予防のほうが効くということ。クロスは喫煙・結露の放置・落書きで、フローリングはキズと水漏れの放置で借主負担に落ちます。どれも入居中の行動で決まります。換気する、結露を拭く、連絡する、家具の脚を保護する。地味ですが、ここが効きます。

クリーニングが4番目に入っているのは、特約の理解が食い違いやすいからだと考えられます。契約時に特約の有無を確認しておけば、この項目は事前に潰せます。

筆者の判断基準

迷ったときに、この順番で考えています。

  1. まず区分を疑う。磨く前に仕分ける。 目についた汚れから手をつけるのではなく、それが経年変化・通常損耗なのか、手入れ不足で拡大したものなのかを先に分ける。前者に時間を使わない
  2. 掃除は A(+B) に集中させる。 キッチンの油、浴室のカビ、排水口。この3つに時間の大半を割り当てる。クロスの日焼けや家具のへこみは触らない
  3. 研磨に手を出すのは最後。 傷をつけると、通常損耗だったものが故意・過失の毀損に変わりかねない。溶かす・浮かせるで止まらないものは、そのまま残して立会いで説明する
  4. 記録は撮るより探すのが先。 入居時の写真とチェックリストが手元にあるかで、立会いでできることが変わる。無ければ、退去前に今の状態を撮る
  5. 立会いでは3つだけ聞く。 部位・区分・設備の交換時期。金額の交渉よりも、この3つの事実を押さえるほうが後で効く
  6. 有効・無効の断定はしない。 特約の有効性は要件に照らした個別判断だとされている領域。自分で結論を出さず、消費生活センターに整理を持ち込む
  7. 入居中の3習慣を切らさない。 換気する、結露を拭いて連絡する、脚を保護する。退去前の一夜漬けより、この3つのほうが結果を変える

よくある質問

退去前のハウスクリーニングは、自分で業者に頼んだほうが安くなりますか

契約内容によります。ハウスクリーニング特約があり、部屋の広さや間取りに応じた定額を負担する内容になっている場合、自分で別の業者に頼んでも特約分の負担が消えるとは限りません。参考資料は、そうした定額の特約が実務で多いことを紹介しています。まず契約書の特約を確認し、二重負担にならないかを管理会社等に確認してから判断してください。

掃除をまったくしないで退去したら、その分だけ請求は増えますか

単純な比例にはなりません。通常損耗と経年変化は原則として貸主負担なので、普通の生活で付いた汚れの分が積み上がるわけではありません。増えるのは、手入れを怠って通常以上になった部分です。参考資料は、清掃等を怠ったために特別の清掃をしなければ除去できないカビ等の汚損を生じさせた場合、原状回復費用の負担を求められる可能性が高くなるとしています。つまり、落ちなくなる前に落としてあるかどうかが効きます。

入居時の写真を撮っていません。もう打つ手はないですか

打つ手はあります。参考資料は、借主が管理会社等から確認リスト等の提出を求められていない場合でも、ガイドラインに掲載している物件状況リスト等を用いて管理会社等と物件の状況の認識と証拠を共有しておくことが考えられるとしています。今からでも、退去前の状態を写真で残し、気になる箇所については立会いで発生時期の認識を確認しておくことができます。また、経過年数と施工単位の照合は写真がなくてもできるので、精算書を受け取ったら3つの照合点を順に確認してください。

参照した公式情報(取得日)

すべて 2026-09-12 に取得しました。

まとめ:区分を先に決めて、掃除と予防を割り当てる

賃貸の退去時の掃除と原状回復は、次の順番で考えると迷いません。

  1. ルールを知る: 通常損耗・経年変化は原則として貸主負担。借主負担は故意・過失や手入れ不足による通常以上の部分
  2. 区分で仕分ける: A(貸主負担)・B(借主負担)・A(+B)(手入れ不足で拡大)。掃除で動くのは A(+B) だけ
  3. 年数と範囲を知る: 負担割合は経過年数で下がる。範囲は毀損部分の最低限度が基本で、クロスは一面分まで
  4. 掃除は集中させる: キッチンの油、浴室のカビ、排水口。クロスの日焼けや家具のへこみには手をかけない
  5. 入居中に予防する: 換気する、結露を拭いて連絡する、家具の脚を保護する、油を入れない
  6. 立会いで3つ聞く: 部位・区分・設備の交換時期
  7. 精算書は3点照合: 区分 → 経過年数 → 施工単位の順に確認する
  8. 納得できないときは相談する: まず内訳と根拠、次に消費生活センター

原状回復は、予防と知識で結果が変わります。日頃からちょっと気をつけて、退去のときは落ち着いて順番に確認する。それだけで、不安も負担もぐっと軽くなります。

※商品情報は記事作成時点のものです。最新の内容は各商品ページでご確認ください。制度の詳細や個別の負担範囲は、賃貸借契約書と公的機関の情報をご確認ください。

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